8月3日 R系(無し)肝試しに行こう!
2017年 08月 05日
皆さん、こんにちは!
まず更新が予定より遅れてしまって申し訳ありません。
実際の撮影でもそうなんですが、撮っている内に興が乗って来る
撮影と、逆に何となく“もういいかな?”と思ってしまう撮影、
テーマに拠って、撮っている本人すら予測できないモチベーション
の変化って必ず有る物なのですね。
今回は幸い(?)撮ってる内にドンドン気分が乗って来た撮影に
なりました。そのせいで話が際限なく膨らんでしまい、こうして
更新が遅れる結果になってしまいました。
で、興が乗って撮ったという事は、つまり予想外に撮影した枚数が
増えちゃったという事ですw
今回のお話、テーマは肝試しですが、別に皆さんを見て怖がらせる
意図で作っている訳でなく、シリアスとコメディ、その両方を絡めて
お話が進んで行きます。ただ、今日の記事1回でラストまで全てを
載せるのは流石に長過ぎると思いますので、スイマセンが次回もう一回だけ
R系という事でお願いしたく思います。
今回は何とあの北斗杉さんが主役です。そして次回がアリサ先生。
...って、アレ? ウチの看板娘はどうなってるんでしょう?w
※今日のSSは夜の公園と墓場が舞台の為、その雰囲気を壊さぬよう、
写真をかなり暗く仕上げております。明るい部屋で見るとSSの細部
が見づらいので、出来ればお部屋を暗めにしてご覧頂ければと思います。
「町会長、去年も思ったけどコレ暑い、臭い!
来年はマジ、誰か他にやってくれる人見つけて下さいよ?」
「辛抱しろい。坂田さんなんぞ、それ5年も着てたんだぞ?
流石にもう歳ってんで、今年限りでお化け役を引退されるそうだが、
最後の奉公と、今年も最初の脅かし役で出てくれてるんだからよ。」
「亮介さん、今年替わって貰ってホントすいません。」
「豪さんの頼みとありゃ別に文句はねぇけど、コレ半端なく暑いなオイ。
現役時代の減量思い出すぜ。」
「あっ豪さん、ちぃーす。」「...どうも。」
「おう、準備出来たようだな。町会長、幽霊役の坂田さんと骸骨係の
斎藤くん、先に現場に行くそうです。」「おう了解。」
「そういや、亮介さん元ボクサーでしたよね。元ボクサーなら、ゾンビも
幽霊も半魚人も全然怖くないですね、へへへ。」
「まぁな。しかし最近の着ぐるみはスゲェな。このゾンビも、ただ頭から
1枚面を被るんじゃなくて、こうして顔に糊で1枚くっ付けてからだと。」
「ですね。何でもそうすると顔に表情が出せるんだとかで。」
「...あんまりダベってると遅くなりますぜー?」
「おぉそうだ喜べ。今年はガキんちょだけじゃなく、ピチピチの女子校生が
4人と、引率の美人教師も飛び入り参加するそうだぞ。ほら、風呂屋の野口
さんとこの咲良ちゃん。その娘のツレらしい。」
「じゃあ、巨乳のれいなちゃんも?やったぁ、俺俄然やる気出て来た!」
─ そして肝試し開始 ─
「あぁやっと終わったぁ。もっと子供向けのを想像してたのに、まさか
あれほど本格的な肝試しだったとは...。」
「...最悪!」「えっ!?」
「どこの世界に“おっぱい揉ませろ”って襲ってくるお化けが居るのよ!」
「...お化けじゃなくて、半魚人だったと思うけど。」
「どうでもいいわっ。アレ絶対向かいのマンションのエロオヤジだわ。
あー腹立つっ、豪さんに頼んでとっちめて貰おうかしら!?」「...アハハ。」
「おっ、帰って来た。お待たせしてすいませんね先生。こういうのはご父兄が
心配されるとアレなんで、どうしても小さな子供から優先的にって事なんで。」
「そ、それは構いませんけど...。」
「で、どうします先生?もう咲良ちゃん待たずに、お一人で行っちゃいます?
あの娘、確か中学の時にも一回参加してますし。」
「えっと野口さんの件もそうなんですが...」「何か?」
「肝試しから帰ったウチの生徒が一人、先程からずっと放心状態のまま微動だに
しないんですけど、それは...。」
「あぁ、あはは。いやぁ余程怖かったんでしょうな。楽しんで頂けた様で、
こちらも頑張って脅かした甲斐が有るってモンです、ハハハ!」「はぁ...。」
「大丈夫だよ、先生。これでも凛、ちゃんと自分で歩いて此処まで帰って来た
んだからさ。...目の焦点合って無かったけど。」
「ちょっ、凛さん!何コレ、どうしたの!?」
「いや、ちょっとはしゃぎ過ぎたの。先生も行ってきなよ、思ってるよりずっと
楽しかったよ? 特にほらっ、あのガ...」「おっと、お嬢ちゃん!」
「あっ、いけね。ネタバレ厳禁ってお約束だった。」
(が? ガッ!? がって何?何なの!?)
「いやぁ咲良ちゃん、急に“アタシもやっぱり浴衣着る!”とか言って、いきなり
家に戻っちまったみたいで。」「え、ええ。」
「それにあのガタイの良いお嬢さん? ...ですよね? あの娘も人数合わせの相談
する前に“一人で大丈夫だから”って勝手に行っちまったもんですから、最後に
なってどうにも数が合わなくなってしまいまして。」
「あっ、アタシ楽しかったからもう一回行っても良いよっ!?」
「えっと、じ..じゃあこうしましょう!たった今予定の時間を過ぎたという事
ですから、あと5分、いや3分待って、それでも野口さんが帰って来ない
場合には、残念ですが今日はお開きという事で...。」
「先生は回らなくて良いんですかい? 楽しいですよ?」
「いや、その何と言うか...そう!野口さん、どうも私と一緒に回るのを楽しみに
してくれていた様なので、それを私一人で回ってしまうとガッカリさせるかも
知れないと言うか。」
「おぉなるほど!流石は名門まる学の先生だ。常に生徒の気持ちになってって奴
ですな?こりゃ御見逸れ致しやした。」「あぁ...ハイ、スイマセン。」
「...何で謝るんで?」「いえ。」
「せんせーえっ!ハァ、ハァ。間に合ったぁー!」
「おぉ良かった。咲良ちゃん来ましたよ!先生のその生徒へのお気持ちが、
どうやら天にも通じたようですな。」
「ってあれ、先生?」
「...はい、良かったです。...とても。」
─ その頃、肝試しの舞台である墓場では ─
(...ふむ、流石に暗いな。ペンライト無しでは厳しいか。)
(だが濃密な気配は漂っている。気配の数ならざっと5~6人と見たが、
脅そうとする僅かな殺気から察するに、脅し役は恐らく3人。
しかし一人だけ気の質が読めぬ者が居る。この気の動き、言うなれば
“哀”という感じだが、実に興味深い...。)
(まぁ話をするにも、まずは出て来て頂かなくてはな。)
「行くか...。」
「ふふふ。」
(ほう。随分ガタイの良い女子が居ると聞いたがこの娘か。最近は大の男ですら
怖がって一人で回りたがらない者も多いのに剛毅な事だ。その意気や良し!
今日は子供会肝試し脅し役参加二桁を数えたこのワシ、不肖坂田が最後の奉公。
お主に肝試しの神髄をとくと披露してくれようぞ。)
(まず何故最初は前からではなく後ろから脅すのか。前から脅すと、怖がりな子は
そこで回れ右して帰ってしまうからだ。すると、折角の賞品“御菓子詰め合わせ”
を手に出来ないばかりでなく、翌日には友達から笑い者にされてしまう。そして、
最終的には私たちがご父兄方からお叱りを受ける事になるからなのだ!
...だが最近はやれ塾だ家庭教師だと、こうして肝試しを楽しむ子供も減って来た。
町内会の参加者も減る一方じゃ。その癖、やれマンネリだ、お菓子がショボイだ、
文句だけは一人前に垂れよる!
お化けが同じでマンネリだ?着ぐるみ一体買うのに、何十万円掛かると思って
おるのだ?お菓子がショボい?文句が有るなら口だけ出さずに金も出せ!
全く、どいつもコイツも無責任に好き放題言いおって!その割に“じゃあ私たち
の替わりに貴方がやって下さいよ”と言えば、今度はあーだこーだと講釈を垂れて
責任逃れをしよる!!)
(...はっイカン。こうして日々言っても詮無き不満を心に溜め込むから、人はある日
何かをキッカケにキレるのだと聞いたぞ。というか、早く行かんと肝心の姉ちゃん
が先に行ってしまうわい。)
(ふふふ、ここでも一つ注意が必要じゃ。余り派手に脅かすと、慌てて駆け出した
挙句に転んでしまう子供も居る。特に最近は自分で転んでも自ら地面に手を付けぬ
ような子供も少なくない。つまりここは軽く脅して、子供らの退路を断つ事こそ
肝要という訳じゃ!じゃが、まぁこの娘ならそういう心配は無用か。..ではいざ!)
「先程からの後ろの気配。御仁の物であったか...。」
(なんとっ!この坂田、これまで子供たちは言うに及ばず、引率のご父兄方にすら、
一度たりとも気取られる事など無かったものを!!)
「先程から感じる御仁からの気。殺気でもなく面白がるでも無く、純粋に子供たちを
楽しませようとする気持ちに溢れておりました。」
「だが、それと同時に、怒りとも悲しみとも嘆きともつかぬ複雑な気も感じました。
恐らくは、ままならぬ今の世をお嘆きなのではないかとお察しいたします。」
「...むぅ。」
「昨今は誰も彼もが皆、無責任な物言いをする。ひと昔前なら、そういう物は夜の
酒場でのみ許された物と聞き及んでおります。酒が言わせた一言と、翌日には
言った方も聞かされた方も、共に綺麗さっぱり忘れて水に流すのが、暗黙の了解
だったそうで。」
「...。」
「だが今のネット時代、その酒の席での一言の安易さで、無責任な発言をする者が
多すぎる。近頃は小学生までもが、匿名を盾に至らぬ大人たちの真似をして、
ネットやラインで無責任な言動のし放題。それを見とがめる親も居ない。
皆が自分の言葉に責任を取らずに済む“放言”という物の容易さ、気楽さに酔いしれ
てしまっている。...寒い時代になったものです。」
「...確かに今程皆が無責任で手前勝手な時代は無かったかも知れぬのう。」
「御仁、もし誰もが皆自分の都合しか顧みず、他者を思い遣らぬのであれば、
この世は闇と同じです。
ですが今日のこの夜空をご覧になられて下さい。大きな、大き過ぎる闇を
拭う事は出来ずとも、その闇を照らし、我々が夜の闇に迷わずに済むよう、
ささやかな灯になろうと、ああして小さくとも精一杯闇を照らしている
星々が居る。...御仁、貴方もあの夜空の星と同じです。」
「星か...」
「例え小さな光でも、貴方の様な方々が世に居るからこそ、この世もまた決して
闇だけでは無い。己れの弱さ・小ささを知りつつも、星も貴方も懸命に夜空と
世間の闇を照らし続けているではありませんか。もし夜空が美しいのがあの星
たちのお陰と言うのならば、この世が美しいのは...御仁。それは、あなたの
様な方が世に居てくれるからです。」
「私の様な見ず知らずの若輩者が、こんな事をお願い出来る道理も無いのは
承知しているのですが...」
「どうぞお体に気を付けて、一日でも長く、一人でも多く、この国の未来を
担う子供たちに、楽しい思い出と明るい笑顔を与えてやって下さい。」
「ん、何だ?打ち上げのビール頼んでた酒屋か?
ちっ...なんだ、現場担当のヤスからか。」
「もしもし、どうした? ...何?坂田さんが仕事そっちのけで感涙に咽び
泣いてる? 何言ってんだオメェ? えっ、通路の入口でプラトーンみたい
になってる? おい豪さん、プラトーンって何だ?」
「確か昔の戦争映画だったような...。」
「うおおぉおぉーっ!見ててくれ女学生さん!
ワシはやるぞ、命続く限りこの世に小さな光を灯し続けて見せますぞ!!」
「あぁー何か良く分かんねぇけど、あと一組で終わりなんだからよ!
あぁそうだよ。だから何とか坂田の爺さん落ち着かせて、仕事の続き
やらせてくれ。今から出るから、5分後ぐらいにはそっち着くし。
宜しくなっ!」 ピッ
「...何なんです?」
「知らん!何だよ、夜中の墓場でジジイが天に向かって叫んでるって、
お化けなんかよりそっちの方がよっぽど怖えぇだろ、まったく。」
グオオォォーッ!!!
「どうも、暑い中ご苦労様です。」
「それと左の脇の下辺り、縫製が解けてますよ?」
「ぐおぉ...え、マジで?」「はい。」
「あ、ホントだ。ヤベェ、さっきレイナちゃんの時に張り切り過ぎたか。」
(という事は、順路はこちらか...。)
「そこの青年!これは貴方の作品ですか?実に良い出来ですね!」
「いやぁ皆元気だねぇ。若いっていいねぇ、豪さん。」
「町会長、またお電話みたいですぜ?」
「ん?何だ、またヤスからじゃねぇか。...俺だ、今度は何だ!?
何?着ぐるみ破いちまったけど、どうしましょうって? 知るか!
それだけか? え、亮介が勝手にザルを鐘楼ん所へ動かした?何で?
疲れたから?うーん、まぁ別に良いじゃねぇかそれぐらい。とにかく
現場はお前に任してあるんだから、そんな細けぇ事でいちいち電話して
来なくていいから。そっちの事はそっちで何とかしろや。」ピッ
「そう言えば町会長。その亮介の奴、ちゃんとやってるんですかね?」
「さっきのザルの件以外、ヤスから何も言って来ねぇ所を見ると、多分
真面目にやってんじゃねぇのかな?」
「そうですか、それは一安心ですね。」
「まぁ何せ瞬間湯沸し器みたいな奴だからな。何が気に食わねぇか知らねぇが
突然キレる。しかもキレると何しでかすか分からねぇ。今日はその万一も
考えて、こうして豪さんにご足労願ってる訳だ。幾らアイツが乱暴者でも、
豪さんの前で女子供相手に下手を打ちゃしねぇだろ?」
「...アイツはイキがって居ますが、別にそう強い訳じゃない。本当は臆病で、
常に自分の力を周囲に誇示していないと不安になるタイプなんです。」
「それで?何か気に掛かる事でも?」
「亮介みたいなタイプの人間が、生理的に嫌うタイプの人間も居る訳ですよ。
つまり人として強くて、真っ直ぐで、落ち着いていて、自信に満ちている。
...そんな自分に無い物を持っている人間には、気分次第で女子供関係なく
突っかかって行く所がありまして。」
「そんなもんただの逆恨みじゃねぇか。だけど、今日の参加者に...あっ!」
「そうなんです。居るとすれば一人だけ居るんですよ。」
(...おかしい。先程から胸をよぎるこの違和感の正体は一体何だ?
私の行動に何か不条理な点があると言うのか。)
(ハッ!そうか!! こうして暑い中やぶ蚊に悩まされながらも、子供たち
の為に一生懸命脅し役をやっている皆さん。その皆さんの脅しに対して、
私はこれまで一度も驚いていないではないか!?
脅し役の方々は、私の反応を見てさぞや落胆したに違いない。そこに
思い至らぬとは! クッ、この北斗杉一生の不覚!! 次こそは...。)
(...ん、ザルがある。だがここは鐘楼で古井戸ではないのだが。)
(チッ、まだ来るのかよ、面倒くせぇ。)「ぐあああぁぁ(棒読み)」
(しまった、また忘れる所だった!)
「う、うわあぁ(もっと棒読み)。」
「...おい、何だそのふざけた驚き方はよぉ? テメェ、この俺様を馬鹿に
してんのか!?」
(そちらの気の抜けた脅し方も大概だった気がするが...。だが、やはり
こうなってしまったか。私の最も不得手とするのは演技!
ブログ開設から半年、私が未だに看板娘の地位を脅かす事すら適わぬ
のも、恐らくはこの演技力の未熟さ故ではないかと思っている...。)
※作者注:違います
「気を悪くされたのなら謝罪しましょう。実は大抵の事には驚かない性質
でして。悪気は無かったのですよ。...ですが、先程の貴方の驚かせ方も
大概でしたよ? まぁ長時間のお勤めなのですから、お疲れなのでしょう。
ここは一つ、お互い様という事で水に流して頂ければ有難い。」
「待ちな。」「まだ何か?」
「...そんな謝り方じゃあ納得出来ねぇな。テメェ、さっき謝罪するって
言ったんだろ? だったら気を悪くしたコッチの方が納得するような
謝り方をしろって言ってんだ。分かるか、誠意を見せるって奴だよ?」
「それならさっき見せました。お互い様ですよ。」「何をっ!?」
「何だテメェ、さっきから落ち着き腐って気に食わねぇ。俺は悪いなんて
一言も言っちゃ居ねぇぞ? 勝手に謝ったのはソッチの方だろうが!?」
「なるほど、では私も先程の謝罪を撤回しよう。」「はぁ!?」
「ハッキリ申し上げますと、貴方の目的が謝罪では無いからです。」
「じゃ何だつーんだ!?」
「他者を屈服させる事で、己の矮小な自尊心を満足させる為の行為です。
この北斗杉、真に己が誤ったと思うなら土下座も辞さぬ覚悟はあるが、
そんな詰まらん物の為に下げるような頭は生憎持っておりません。」
(...やれやれ、出来れば穏便にと思ったがそうも行かんらしい。それに、
慣れぬ事をしてわざわざ藪から蛇を突いて出したのは、確かにこちらの
非でもあるか...。)
「ちくしょう、何だお前は? さっきからこの俺にケンカ売ってるように
しか思えねぇんだが!?」
「..いや、どう考えてもそれはそちらの方だ。」
「分からねぇネェチャンだな、オイ。テメェがすいませんでしたと俺に
頭下げりゃ、それで済む問題だろうが?」
「謝罪する方が、それに納得しているかどうかも大切だと思うが?」
「うるせえっ!要は、この俺の腹の虫が収まりゃそれで良いんだよ!
テメェの気持ちがどうとか、この俺様が知った事かよっ!?」
「な、何だ。やるってのか!? 悪いがこれでも俺はキレると何をするか
分からねぇ性質だ。後でゴメンなさいって言ったって、もう ─ 」
「聞けっ!本心を言えば、貴様の様な輩がこの先どうなろうが、
知ったこっちゃない。だが今日は久々に心根の美しいご老人に出会えた。
その美しさに免じて1つだけ、人がこの世に生きる上で、どうしても
知って置かねばならぬ事を教えて置いてやろう。」
「心配するな、決して難しい事では無い。それはな、“お互い様”の精神だ。
未熟で至らぬ人間同士が、共に手を取り合って生きるこの世界、時には
ぶつかり合う事も諍いを起こす事もあるだろう。だが互いに至らぬ人間
同士だからこそ、そこで互いの立場や心情を慮る気持ちが必要なのだ。」
「お互い様の精神さえあれば、時に意見がぶつかろうとも人は最後には
許し合える、妥協し合える。だがそのお互い様の考えと真逆に有るのが、
貴様の様な“俺様”の考えだ。自分の気さえ晴れれば、他者が傷つこうが
お構いなし、自分の快楽の為なら、他人の迷惑など知らぬ顔という、
たった今貴様が自ら吐露した精神なのだ!」
「うるせぇ!!」
(...何!?)
「こっちだ。」「ぐぁ」
(...何だ、左手が痺れて動かねぇ!!)
「時間さえあれば、貴様の鈍らパンチなど1つも当たらん事を見せてやる
のだが、生憎こちらも忙しい。ところで先程から貴様の知り合いが、
奥の藪の中で町会長に電話をしようかどうか、ずっと逡巡しているよう
だぞ? もし貴様が私に怪我でもさせていたら、この後貴様は一体どう
なったのだろうな。」
「知るか、そんなモン!」
「がっ...!」「...そうか。」
(こ、今度は脚が動かねぇ!)
「テメェ一体何者だぁ!? だ、誰かに仕返し頼まれて来たのか!?」
「仕返し?なるほど、日頃自分の鬱憤晴らしの為に、自分より弱い者や
大人しい者を選んでは、憂さ晴らしをしている連中の考えそうな事だな。
安心しろ、誰の頼みも受けては居らん。それよりも、仕返しされる心配
をせねばならんような生活を改めろ。
言っておくが、普通の人間はお前の様に“いつか誰かに復讐されるのでは
ないか”などと考えて生きては居ないぞ?」
「それからもう一つ。“俺はキレると何をするか分からないぞ”などという
セリフを、大人が得意げに言うのは恥ずかしい。止めて置いた方が良い。」
「何だとっ!」
「そうだろう? 誰かからそう評されるならともかく、今時そんなセリフを
自分から得意げに人前で話すのは、後先考える頭の無い無軌道な中高生か、
でなければ後先考えて生きる事を放棄した、ロクデナシの大人位なものだ。
要するに、自分はいい歳をしてまだ己の感情をコントロールする事すら
出来ない子供なのです、と他人に告白しているのと変わらん。違うか?」
「それとな。これは別に貴様を貶めようとして言っているのではないと、
分かって欲しいのだが、貴様は別に強い訳では無いぞ? ただ粗暴で
短気なだけだ。キレれば何をするか分からないのは、何も貴様だけ
ではない。人間は皆そうなのだ。女子供ですら、刃物や銃を持って
寝込みを襲えば、貴様を殺す事など簡単に出来る。皆がそれをしない
のは、皆が貴様より弱いからではない。ただ分別を持ち、その一時の
激情を抑える事が出来るからにすぎぬのだ。
己の強さを見誤るな。でなければ、何時か必ず今日よりもっと酷い目
に遭う事になるぞ。」
「...説教はそれで終わりか? 俺はどうなる?これから血ダルマになる
まで、アンタに殴られるのか?」
「どうもせんよ。今貴様が動けぬのは別に奇術でも何でもない。麻穴
という人体のツボを強く突いただけだ。横になって休んでいれば良い。
5分も経てば自然に動ける様になるだろう。」
「アンタはそれで良いのか?」
「人間は己に降りかかる火の粉を、自分で払う力と勇気さえあれば良い。」
「...ふんっ、そうかい。」
「ん?コインが無い。」
「あぁすまねぇな。退屈なんで、ちょいとイタズラしてザルの下に隠して
あるだけだ。...しかしアンタ強いな。手も足も出なかったのは、豪さん
以来二人目だ。」
「豪さん?」「まぁ色々あったんだが、俺が今ムショじゃなく、こうして
シャバに居られんのは、その豪さんって人のお陰だよ。」「そうか。」
「...ならばその豪という人の言葉なら、貴様はそれがどんなに耳に痛い
言葉であっても受け入れろ。赤の他人にそこまでしてくれる人間など
そうは居ない。自分の弱さ、堪え性の無さと正面から向き合う勇気を
持てなかったからこそ、今の貴様がそこにあるのだ。その勇気と決意を
持たぬ限り、どこの誰にも貴様は変えられん。貴様が自分で変わろうと
しない限りはな。」
(ふっ、言いにくい事も、コッチが触れて欲しくない事も、遠慮なく
ズバズバ言って、コッチの心をエグって来る所も豪さんソックリだ。
...こんな事、誰も信じちゃくれねぇ事も知ってるがよ。俺これでも
本当はちょいとばかしナイーブなんだぜ、お嬢さん?
別に誰に分かって欲しい訳でも無いけどよ...。)
─ 次回に続く
長かったですねw
今日は本当に、最後まで読んで下さって有難う御座いますと申し上げたい
です。実は北斗杉さんの活躍は、今回ボツになった話を含め、あと2つも
用意していたのです。ただ余りにシリアス展開が続くと、読まれる方も
大変だろうという事で思い切ってカットしました。(それでもこの長さw)
坂田さんのお話は、全国の町内会・子供会で頑張って居られる皆様への、
私なりのエールとお考え下さい。一方亮介のエピソードは、随分以前に
目にした“キレる若者”(...みたいなタイトル)のお話が一応モチーフに
なっています。
という事で、次回「肝試し篇・最終話」では、今度は打って変わって
コミカル主体で話を進める予定です。
更新の方は恐らくまた4日後、もしかすると5日後になるかも知れません。
ですが、来て頂いた皆さんに少しでも楽しんで頂けるお話に出来るよう、
頑張って作りますので、どうぞそれまで次回の更新をお待ち下さいませ。
それでは皆様、良いハニセレライフを。
まず更新が予定より遅れてしまって申し訳ありません。
実際の撮影でもそうなんですが、撮っている内に興が乗って来る
撮影と、逆に何となく“もういいかな?”と思ってしまう撮影、
テーマに拠って、撮っている本人すら予測できないモチベーション
の変化って必ず有る物なのですね。
今回は幸い(?)撮ってる内にドンドン気分が乗って来た撮影に
なりました。そのせいで話が際限なく膨らんでしまい、こうして
更新が遅れる結果になってしまいました。
で、興が乗って撮ったという事は、つまり予想外に撮影した枚数が
増えちゃったという事ですw
今回のお話、テーマは肝試しですが、別に皆さんを見て怖がらせる
意図で作っている訳でなく、シリアスとコメディ、その両方を絡めて
お話が進んで行きます。ただ、今日の記事1回でラストまで全てを
載せるのは流石に長過ぎると思いますので、スイマセンが次回もう一回だけ
R系という事でお願いしたく思います。
今回は何とあの北斗杉さんが主役です。そして次回がアリサ先生。
...って、アレ? ウチの看板娘はどうなってるんでしょう?w
※今日のSSは夜の公園と墓場が舞台の為、その雰囲気を壊さぬよう、
写真をかなり暗く仕上げております。明るい部屋で見るとSSの細部
が見づらいので、出来ればお部屋を暗めにしてご覧頂ければと思います。
「町会長、去年も思ったけどコレ暑い、臭い!
来年はマジ、誰か他にやってくれる人見つけて下さいよ?」
「辛抱しろい。坂田さんなんぞ、それ5年も着てたんだぞ?
流石にもう歳ってんで、今年限りでお化け役を引退されるそうだが、
最後の奉公と、今年も最初の脅かし役で出てくれてるんだからよ。」
「亮介さん、今年替わって貰ってホントすいません。」
「豪さんの頼みとありゃ別に文句はねぇけど、コレ半端なく暑いなオイ。
現役時代の減量思い出すぜ。」
「あっ豪さん、ちぃーす。」「...どうも。」
「おう、準備出来たようだな。町会長、幽霊役の坂田さんと骸骨係の
斎藤くん、先に現場に行くそうです。」「おう了解。」
「そういや、亮介さん元ボクサーでしたよね。元ボクサーなら、ゾンビも
幽霊も半魚人も全然怖くないですね、へへへ。」
「まぁな。しかし最近の着ぐるみはスゲェな。このゾンビも、ただ頭から
1枚面を被るんじゃなくて、こうして顔に糊で1枚くっ付けてからだと。」
「ですね。何でもそうすると顔に表情が出せるんだとかで。」
「...あんまりダベってると遅くなりますぜー?」
「おぉそうだ喜べ。今年はガキんちょだけじゃなく、ピチピチの女子校生が
4人と、引率の美人教師も飛び入り参加するそうだぞ。ほら、風呂屋の野口
さんとこの咲良ちゃん。その娘のツレらしい。」
「じゃあ、巨乳のれいなちゃんも?やったぁ、俺俄然やる気出て来た!」
─ そして肝試し開始 ─
「あぁやっと終わったぁ。もっと子供向けのを想像してたのに、まさか
あれほど本格的な肝試しだったとは...。」
「...最悪!」「えっ!?」
「どこの世界に“おっぱい揉ませろ”って襲ってくるお化けが居るのよ!」
「...お化けじゃなくて、半魚人だったと思うけど。」
「どうでもいいわっ。アレ絶対向かいのマンションのエロオヤジだわ。
あー腹立つっ、豪さんに頼んでとっちめて貰おうかしら!?」「...アハハ。」
「おっ、帰って来た。お待たせしてすいませんね先生。こういうのはご父兄が
心配されるとアレなんで、どうしても小さな子供から優先的にって事なんで。」
「そ、それは構いませんけど...。」
「で、どうします先生?もう咲良ちゃん待たずに、お一人で行っちゃいます?
あの娘、確か中学の時にも一回参加してますし。」
「えっと野口さんの件もそうなんですが...」「何か?」
「肝試しから帰ったウチの生徒が一人、先程からずっと放心状態のまま微動だに
しないんですけど、それは...。」
「あぁ、あはは。いやぁ余程怖かったんでしょうな。楽しんで頂けた様で、
こちらも頑張って脅かした甲斐が有るってモンです、ハハハ!」「はぁ...。」
「大丈夫だよ、先生。これでも凛、ちゃんと自分で歩いて此処まで帰って来た
んだからさ。...目の焦点合って無かったけど。」
「ちょっ、凛さん!何コレ、どうしたの!?」
「いや、ちょっとはしゃぎ過ぎたの。先生も行ってきなよ、思ってるよりずっと
楽しかったよ? 特にほらっ、あのガ...」「おっと、お嬢ちゃん!」
「あっ、いけね。ネタバレ厳禁ってお約束だった。」
(が? ガッ!? がって何?何なの!?)
「いやぁ咲良ちゃん、急に“アタシもやっぱり浴衣着る!”とか言って、いきなり
家に戻っちまったみたいで。」「え、ええ。」
「それにあのガタイの良いお嬢さん? ...ですよね? あの娘も人数合わせの相談
する前に“一人で大丈夫だから”って勝手に行っちまったもんですから、最後に
なってどうにも数が合わなくなってしまいまして。」
「あっ、アタシ楽しかったからもう一回行っても良いよっ!?」
「えっと、じ..じゃあこうしましょう!たった今予定の時間を過ぎたという事
ですから、あと5分、いや3分待って、それでも野口さんが帰って来ない
場合には、残念ですが今日はお開きという事で...。」
「先生は回らなくて良いんですかい? 楽しいですよ?」
「いや、その何と言うか...そう!野口さん、どうも私と一緒に回るのを楽しみに
してくれていた様なので、それを私一人で回ってしまうとガッカリさせるかも
知れないと言うか。」
「おぉなるほど!流石は名門まる学の先生だ。常に生徒の気持ちになってって奴
ですな?こりゃ御見逸れ致しやした。」「あぁ...ハイ、スイマセン。」
「...何で謝るんで?」「いえ。」
「せんせーえっ!ハァ、ハァ。間に合ったぁー!」
「おぉ良かった。咲良ちゃん来ましたよ!先生のその生徒へのお気持ちが、
どうやら天にも通じたようですな。」
「ってあれ、先生?」
「...はい、良かったです。...とても。」
─ その頃、肝試しの舞台である墓場では ─
(...ふむ、流石に暗いな。ペンライト無しでは厳しいか。)
(だが濃密な気配は漂っている。気配の数ならざっと5~6人と見たが、
脅そうとする僅かな殺気から察するに、脅し役は恐らく3人。
しかし一人だけ気の質が読めぬ者が居る。この気の動き、言うなれば
“哀”という感じだが、実に興味深い...。)
(まぁ話をするにも、まずは出て来て頂かなくてはな。)
「行くか...。」
「ふふふ。」
(ほう。随分ガタイの良い女子が居ると聞いたがこの娘か。最近は大の男ですら
怖がって一人で回りたがらない者も多いのに剛毅な事だ。その意気や良し!
今日は子供会肝試し脅し役参加二桁を数えたこのワシ、不肖坂田が最後の奉公。
お主に肝試しの神髄をとくと披露してくれようぞ。)
(まず何故最初は前からではなく後ろから脅すのか。前から脅すと、怖がりな子は
そこで回れ右して帰ってしまうからだ。すると、折角の賞品“御菓子詰め合わせ”
を手に出来ないばかりでなく、翌日には友達から笑い者にされてしまう。そして、
最終的には私たちがご父兄方からお叱りを受ける事になるからなのだ!
...だが最近はやれ塾だ家庭教師だと、こうして肝試しを楽しむ子供も減って来た。
町内会の参加者も減る一方じゃ。その癖、やれマンネリだ、お菓子がショボイだ、
文句だけは一人前に垂れよる!
お化けが同じでマンネリだ?着ぐるみ一体買うのに、何十万円掛かると思って
おるのだ?お菓子がショボい?文句が有るなら口だけ出さずに金も出せ!
全く、どいつもコイツも無責任に好き放題言いおって!その割に“じゃあ私たち
の替わりに貴方がやって下さいよ”と言えば、今度はあーだこーだと講釈を垂れて
責任逃れをしよる!!)
(...はっイカン。こうして日々言っても詮無き不満を心に溜め込むから、人はある日
何かをキッカケにキレるのだと聞いたぞ。というか、早く行かんと肝心の姉ちゃん
が先に行ってしまうわい。)
(ふふふ、ここでも一つ注意が必要じゃ。余り派手に脅かすと、慌てて駆け出した
挙句に転んでしまう子供も居る。特に最近は自分で転んでも自ら地面に手を付けぬ
ような子供も少なくない。つまりここは軽く脅して、子供らの退路を断つ事こそ
肝要という訳じゃ!じゃが、まぁこの娘ならそういう心配は無用か。..ではいざ!)
「先程からの後ろの気配。御仁の物であったか...。」
(なんとっ!この坂田、これまで子供たちは言うに及ばず、引率のご父兄方にすら、
一度たりとも気取られる事など無かったものを!!)
「先程から感じる御仁からの気。殺気でもなく面白がるでも無く、純粋に子供たちを
楽しませようとする気持ちに溢れておりました。」
「だが、それと同時に、怒りとも悲しみとも嘆きともつかぬ複雑な気も感じました。
恐らくは、ままならぬ今の世をお嘆きなのではないかとお察しいたします。」
「...むぅ。」
「昨今は誰も彼もが皆、無責任な物言いをする。ひと昔前なら、そういう物は夜の
酒場でのみ許された物と聞き及んでおります。酒が言わせた一言と、翌日には
言った方も聞かされた方も、共に綺麗さっぱり忘れて水に流すのが、暗黙の了解
だったそうで。」
「...。」
「だが今のネット時代、その酒の席での一言の安易さで、無責任な発言をする者が
多すぎる。近頃は小学生までもが、匿名を盾に至らぬ大人たちの真似をして、
ネットやラインで無責任な言動のし放題。それを見とがめる親も居ない。
皆が自分の言葉に責任を取らずに済む“放言”という物の容易さ、気楽さに酔いしれ
てしまっている。...寒い時代になったものです。」
「...確かに今程皆が無責任で手前勝手な時代は無かったかも知れぬのう。」
「御仁、もし誰もが皆自分の都合しか顧みず、他者を思い遣らぬのであれば、
この世は闇と同じです。
ですが今日のこの夜空をご覧になられて下さい。大きな、大き過ぎる闇を
拭う事は出来ずとも、その闇を照らし、我々が夜の闇に迷わずに済むよう、
ささやかな灯になろうと、ああして小さくとも精一杯闇を照らしている
星々が居る。...御仁、貴方もあの夜空の星と同じです。」
「星か...」
「例え小さな光でも、貴方の様な方々が世に居るからこそ、この世もまた決して
闇だけでは無い。己れの弱さ・小ささを知りつつも、星も貴方も懸命に夜空と
世間の闇を照らし続けているではありませんか。もし夜空が美しいのがあの星
たちのお陰と言うのならば、この世が美しいのは...御仁。それは、あなたの
様な方が世に居てくれるからです。」
「私の様な見ず知らずの若輩者が、こんな事をお願い出来る道理も無いのは
承知しているのですが...」
「どうぞお体に気を付けて、一日でも長く、一人でも多く、この国の未来を
担う子供たちに、楽しい思い出と明るい笑顔を与えてやって下さい。」
「ん、何だ?打ち上げのビール頼んでた酒屋か?
ちっ...なんだ、現場担当のヤスからか。」
「もしもし、どうした? ...何?坂田さんが仕事そっちのけで感涙に咽び
泣いてる? 何言ってんだオメェ? えっ、通路の入口でプラトーンみたい
になってる? おい豪さん、プラトーンって何だ?」
「確か昔の戦争映画だったような...。」
「うおおぉおぉーっ!見ててくれ女学生さん!
ワシはやるぞ、命続く限りこの世に小さな光を灯し続けて見せますぞ!!」
「あぁー何か良く分かんねぇけど、あと一組で終わりなんだからよ!
あぁそうだよ。だから何とか坂田の爺さん落ち着かせて、仕事の続き
やらせてくれ。今から出るから、5分後ぐらいにはそっち着くし。
宜しくなっ!」 ピッ
「...何なんです?」
「知らん!何だよ、夜中の墓場でジジイが天に向かって叫んでるって、
お化けなんかよりそっちの方がよっぽど怖えぇだろ、まったく。」
グオオォォーッ!!!
「どうも、暑い中ご苦労様です。」
「それと左の脇の下辺り、縫製が解けてますよ?」
「ぐおぉ...え、マジで?」「はい。」
「あ、ホントだ。ヤベェ、さっきレイナちゃんの時に張り切り過ぎたか。」
(という事は、順路はこちらか...。)
「そこの青年!これは貴方の作品ですか?実に良い出来ですね!」
「いやぁ皆元気だねぇ。若いっていいねぇ、豪さん。」
「町会長、またお電話みたいですぜ?」
「ん?何だ、またヤスからじゃねぇか。...俺だ、今度は何だ!?
何?着ぐるみ破いちまったけど、どうしましょうって? 知るか!
それだけか? え、亮介が勝手にザルを鐘楼ん所へ動かした?何で?
疲れたから?うーん、まぁ別に良いじゃねぇかそれぐらい。とにかく
現場はお前に任してあるんだから、そんな細けぇ事でいちいち電話して
来なくていいから。そっちの事はそっちで何とかしろや。」ピッ
「そう言えば町会長。その亮介の奴、ちゃんとやってるんですかね?」
「さっきのザルの件以外、ヤスから何も言って来ねぇ所を見ると、多分
真面目にやってんじゃねぇのかな?」
「そうですか、それは一安心ですね。」
「まぁ何せ瞬間湯沸し器みたいな奴だからな。何が気に食わねぇか知らねぇが
突然キレる。しかもキレると何しでかすか分からねぇ。今日はその万一も
考えて、こうして豪さんにご足労願ってる訳だ。幾らアイツが乱暴者でも、
豪さんの前で女子供相手に下手を打ちゃしねぇだろ?」
「...アイツはイキがって居ますが、別にそう強い訳じゃない。本当は臆病で、
常に自分の力を周囲に誇示していないと不安になるタイプなんです。」
「それで?何か気に掛かる事でも?」
「亮介みたいなタイプの人間が、生理的に嫌うタイプの人間も居る訳ですよ。
つまり人として強くて、真っ直ぐで、落ち着いていて、自信に満ちている。
...そんな自分に無い物を持っている人間には、気分次第で女子供関係なく
突っかかって行く所がありまして。」
「そんなもんただの逆恨みじゃねぇか。だけど、今日の参加者に...あっ!」
「そうなんです。居るとすれば一人だけ居るんですよ。」
(...おかしい。先程から胸をよぎるこの違和感の正体は一体何だ?
私の行動に何か不条理な点があると言うのか。)
(ハッ!そうか!! こうして暑い中やぶ蚊に悩まされながらも、子供たち
の為に一生懸命脅し役をやっている皆さん。その皆さんの脅しに対して、
私はこれまで一度も驚いていないではないか!?
脅し役の方々は、私の反応を見てさぞや落胆したに違いない。そこに
思い至らぬとは! クッ、この北斗杉一生の不覚!! 次こそは...。)
(...ん、ザルがある。だがここは鐘楼で古井戸ではないのだが。)
(チッ、まだ来るのかよ、面倒くせぇ。)「ぐあああぁぁ(棒読み)」
(しまった、また忘れる所だった!)
「う、うわあぁ(もっと棒読み)。」
「...おい、何だそのふざけた驚き方はよぉ? テメェ、この俺様を馬鹿に
してんのか!?」
(そちらの気の抜けた脅し方も大概だった気がするが...。だが、やはり
こうなってしまったか。私の最も不得手とするのは演技!
ブログ開設から半年、私が未だに看板娘の地位を脅かす事すら適わぬ
のも、恐らくはこの演技力の未熟さ故ではないかと思っている...。)
※作者注:違います
「気を悪くされたのなら謝罪しましょう。実は大抵の事には驚かない性質
でして。悪気は無かったのですよ。...ですが、先程の貴方の驚かせ方も
大概でしたよ? まぁ長時間のお勤めなのですから、お疲れなのでしょう。
ここは一つ、お互い様という事で水に流して頂ければ有難い。」
「待ちな。」「まだ何か?」
「...そんな謝り方じゃあ納得出来ねぇな。テメェ、さっき謝罪するって
言ったんだろ? だったら気を悪くしたコッチの方が納得するような
謝り方をしろって言ってんだ。分かるか、誠意を見せるって奴だよ?」
「それならさっき見せました。お互い様ですよ。」「何をっ!?」
「何だテメェ、さっきから落ち着き腐って気に食わねぇ。俺は悪いなんて
一言も言っちゃ居ねぇぞ? 勝手に謝ったのはソッチの方だろうが!?」
「なるほど、では私も先程の謝罪を撤回しよう。」「はぁ!?」
「ハッキリ申し上げますと、貴方の目的が謝罪では無いからです。」
「じゃ何だつーんだ!?」
「他者を屈服させる事で、己の矮小な自尊心を満足させる為の行為です。
この北斗杉、真に己が誤ったと思うなら土下座も辞さぬ覚悟はあるが、
そんな詰まらん物の為に下げるような頭は生憎持っておりません。」
(...やれやれ、出来れば穏便にと思ったがそうも行かんらしい。それに、
慣れぬ事をしてわざわざ藪から蛇を突いて出したのは、確かにこちらの
非でもあるか...。)
「ちくしょう、何だお前は? さっきからこの俺にケンカ売ってるように
しか思えねぇんだが!?」
「..いや、どう考えてもそれはそちらの方だ。」
「分からねぇネェチャンだな、オイ。テメェがすいませんでしたと俺に
頭下げりゃ、それで済む問題だろうが?」
「謝罪する方が、それに納得しているかどうかも大切だと思うが?」
「うるせえっ!要は、この俺の腹の虫が収まりゃそれで良いんだよ!
テメェの気持ちがどうとか、この俺様が知った事かよっ!?」
「な、何だ。やるってのか!? 悪いがこれでも俺はキレると何をするか
分からねぇ性質だ。後でゴメンなさいって言ったって、もう ─ 」
「聞けっ!本心を言えば、貴様の様な輩がこの先どうなろうが、
知ったこっちゃない。だが今日は久々に心根の美しいご老人に出会えた。
その美しさに免じて1つだけ、人がこの世に生きる上で、どうしても
知って置かねばならぬ事を教えて置いてやろう。」
「心配するな、決して難しい事では無い。それはな、“お互い様”の精神だ。
未熟で至らぬ人間同士が、共に手を取り合って生きるこの世界、時には
ぶつかり合う事も諍いを起こす事もあるだろう。だが互いに至らぬ人間
同士だからこそ、そこで互いの立場や心情を慮る気持ちが必要なのだ。」
「お互い様の精神さえあれば、時に意見がぶつかろうとも人は最後には
許し合える、妥協し合える。だがそのお互い様の考えと真逆に有るのが、
貴様の様な“俺様”の考えだ。自分の気さえ晴れれば、他者が傷つこうが
お構いなし、自分の快楽の為なら、他人の迷惑など知らぬ顔という、
たった今貴様が自ら吐露した精神なのだ!」
「うるせぇ!!」
(...何!?)
「こっちだ。」「ぐぁ」
(...何だ、左手が痺れて動かねぇ!!)
「時間さえあれば、貴様の鈍らパンチなど1つも当たらん事を見せてやる
のだが、生憎こちらも忙しい。ところで先程から貴様の知り合いが、
奥の藪の中で町会長に電話をしようかどうか、ずっと逡巡しているよう
だぞ? もし貴様が私に怪我でもさせていたら、この後貴様は一体どう
なったのだろうな。」
「知るか、そんなモン!」
「がっ...!」「...そうか。」
(こ、今度は脚が動かねぇ!)
「テメェ一体何者だぁ!? だ、誰かに仕返し頼まれて来たのか!?」
「仕返し?なるほど、日頃自分の鬱憤晴らしの為に、自分より弱い者や
大人しい者を選んでは、憂さ晴らしをしている連中の考えそうな事だな。
安心しろ、誰の頼みも受けては居らん。それよりも、仕返しされる心配
をせねばならんような生活を改めろ。
言っておくが、普通の人間はお前の様に“いつか誰かに復讐されるのでは
ないか”などと考えて生きては居ないぞ?」
「それからもう一つ。“俺はキレると何をするか分からないぞ”などという
セリフを、大人が得意げに言うのは恥ずかしい。止めて置いた方が良い。」
「何だとっ!」
「そうだろう? 誰かからそう評されるならともかく、今時そんなセリフを
自分から得意げに人前で話すのは、後先考える頭の無い無軌道な中高生か、
でなければ後先考えて生きる事を放棄した、ロクデナシの大人位なものだ。
要するに、自分はいい歳をしてまだ己の感情をコントロールする事すら
出来ない子供なのです、と他人に告白しているのと変わらん。違うか?」
「それとな。これは別に貴様を貶めようとして言っているのではないと、
分かって欲しいのだが、貴様は別に強い訳では無いぞ? ただ粗暴で
短気なだけだ。キレれば何をするか分からないのは、何も貴様だけ
ではない。人間は皆そうなのだ。女子供ですら、刃物や銃を持って
寝込みを襲えば、貴様を殺す事など簡単に出来る。皆がそれをしない
のは、皆が貴様より弱いからではない。ただ分別を持ち、その一時の
激情を抑える事が出来るからにすぎぬのだ。
己の強さを見誤るな。でなければ、何時か必ず今日よりもっと酷い目
に遭う事になるぞ。」
「...説教はそれで終わりか? 俺はどうなる?これから血ダルマになる
まで、アンタに殴られるのか?」
「どうもせんよ。今貴様が動けぬのは別に奇術でも何でもない。麻穴
という人体のツボを強く突いただけだ。横になって休んでいれば良い。
5分も経てば自然に動ける様になるだろう。」
「アンタはそれで良いのか?」
「人間は己に降りかかる火の粉を、自分で払う力と勇気さえあれば良い。」
「...ふんっ、そうかい。」
「ん?コインが無い。」
「あぁすまねぇな。退屈なんで、ちょいとイタズラしてザルの下に隠して
あるだけだ。...しかしアンタ強いな。手も足も出なかったのは、豪さん
以来二人目だ。」
「豪さん?」「まぁ色々あったんだが、俺が今ムショじゃなく、こうして
シャバに居られんのは、その豪さんって人のお陰だよ。」「そうか。」
「...ならばその豪という人の言葉なら、貴様はそれがどんなに耳に痛い
言葉であっても受け入れろ。赤の他人にそこまでしてくれる人間など
そうは居ない。自分の弱さ、堪え性の無さと正面から向き合う勇気を
持てなかったからこそ、今の貴様がそこにあるのだ。その勇気と決意を
持たぬ限り、どこの誰にも貴様は変えられん。貴様が自分で変わろうと
しない限りはな。」
(ふっ、言いにくい事も、コッチが触れて欲しくない事も、遠慮なく
ズバズバ言って、コッチの心をエグって来る所も豪さんソックリだ。
...こんな事、誰も信じちゃくれねぇ事も知ってるがよ。俺これでも
本当はちょいとばかしナイーブなんだぜ、お嬢さん?
別に誰に分かって欲しい訳でも無いけどよ...。)
─ 次回に続く
長かったですねw
今日は本当に、最後まで読んで下さって有難う御座いますと申し上げたい
です。実は北斗杉さんの活躍は、今回ボツになった話を含め、あと2つも
用意していたのです。ただ余りにシリアス展開が続くと、読まれる方も
大変だろうという事で思い切ってカットしました。(それでもこの長さw)
坂田さんのお話は、全国の町内会・子供会で頑張って居られる皆様への、
私なりのエールとお考え下さい。一方亮介のエピソードは、随分以前に
目にした“キレる若者”(...みたいなタイトル)のお話が一応モチーフに
なっています。
という事で、次回「肝試し篇・最終話」では、今度は打って変わって
コミカル主体で話を進める予定です。
更新の方は恐らくまた4日後、もしかすると5日後になるかも知れません。
ですが、来て頂いた皆さんに少しでも楽しんで頂けるお話に出来るよう、
頑張って作りますので、どうぞそれまで次回の更新をお待ち下さいませ。
それでは皆様、良いハニセレライフを。
by moriguchi01
| 2017-08-05 10:42
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