10月4日 R系(無し)コスプレ同好会編⑥ -後半-
2017年 10月 04日
お待たせしました。
それではここから、コスプレ同好会編⑥前半からの続き
をお送り致します。どうぞお楽しみ下さいませ。
「こちらです。」
「...なるほど、確かに良い庭園ね。手入れも...そうね、
見た感じ過不足無く行き届いてる。」
「広いですよねぇ。」
「これだけの庭を維持管理するだけでも、相当な費用
が掛かるものよ。まぁ早瀬さんの様なお金持ちの家
の皆さんには、ドンドン稼いでドンドン使って貰う
事が一番なんだけどね。」「そうなんですか?」
「個人にとって、お金は所有している事に意味が有る。けれど、 「それではこれより練習試合を開始します。初心者同士の
社会や経済にとっては、お金は流通している事にこそ意味が 対戦という事で、ルールに関しては柔軟に対応します。
有るの。謂わば血液と同じ。血は体の中を常に巡るからこそ 読手は私か千草、脇谷君が担当し、ルールの運用や決定
血足り得る。タンスに仕舞われたお金なんて、社会に於いて に関しても、その時担当の読手を審判長とします。
は人体のうっ血と同じだわ。」「はぁ。」 とにかく皆、くれぐれも怪我だけには注意して楽しんで。
「あそこから庭に下りられそうね。行きましょうか。」 ...じゃあ、始めます!! 」
「...で、ココ本当に土足で歩いて良いの?」
「ふふっ、先生でもやっぱり気になるんですね!」
「いまをはるべと~」 「あきの..」
(参ったなぁ、罰ゲームって何だろ? 饅頭10個一気喰い
とかなら...いやぁ、ダメだダメだっ!! と言うか、みんな
競技カルタの実力ってどれ位なの?)
「さくやこのはな~」
( 一番カルタ歴が長いタカミーは、経験者の千草と脇谷君
以外には左手ハンデが付く。その次に上手いのは千草と
脇谷君だけど、レベルで言えば一番下のE級で入賞出来るか
どうかって程度だって言ってたから、まぁ─ )
(えっ?)
「..たの~」
「..かりほのいほの~..」
(ウヒョッ! このシャッタースピードで、まだ手先が
ブレるのかよ。オラ、ワクワクして来たぞっ!! )
「..とまをあらみ~」 「..わがころもでは つゆにぬれつつ~」
(ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ...!! ) (有り得ないでしょ!? 何、今の速さ!)
「ゴメンね、大丈夫だった?」 「...頑張ってねっ!」「うん!! 」
「平気。アタシの場合、眼は基本カメラにガードされてるし。」 (カルタも人生も同じだ!...自分の取れる札から、
「そ、良かった。(1枚、1枚...!)」 自分の手に届くものから、)
(焦らず、慌てず、諦めず、
着実に手にして行く他は無いんだっ!! )
「本当に良いお庭...。不思議な物ね、ココも都会のビルの中
も同じ暑さ、同じ夏なのに、こうして広い自然に囲まれて
居ると、感じ方さえ違う。」
「あっ私達、さっきはあそこに行ったんです。目の前に大きな
池が有って、鯉じゃなくて河豚が泳いでました!」
「そう...?」
「うわぁ、ここにもたくさん泳いでる。私、真水に棲む河豚が 「...どう、凛さん? 外に出て自然の景色に触れて、
居るなんて全然知りませんでした。」 少しは気分も晴れたかしら。」
「恐らく南米産ね。日本だと冬場の水温が問題になるでしょう 「私は...。」
けど、まぁココなら温水を循環させるなり何なりで、対処も
出来るでしょう。」
「これでも結構真剣に教師をやって来たの。さっき貴方が
どんな事を考えて居たか、どんな事で思い悩んでいたか、
多少は察する事が出来てよ?」「.......。」
「自分は早瀬さんの様には成れない。早瀬さんの様な才能も
無ければ、覇気も、真摯さも、全力でぶつかって行ける様
な目標すら無い。向こうは青春全てを賭けて、悩みながら、
迷いながらも友人達と共に手を取り合って、前へ前へと
歩いている。なのに今の自分はどうだろう?彼女も私も、
同じ高校生なのに。...まぁそんな所かしら?」
「凄い、先生心が読めるんですか?」 「夢があって、それに力一杯、自分の体ごとぶつかって
「...貴方って結構天然よね?」「そうなんですか!? 」 行ける勇気がある所が、でしょう?」
「まぁ良いわ。言って置くわ、凜さん。別に早瀬さんと自分を 「そうです。...私は今までもただ流されるみたいに生きて
比べる必要は無い。使い古された言葉だけど、やっぱり今の 来て、そして多分これからも、それは変わらなくて。」
貴方に掛けるべき言葉はそれしか無いわ。」 「心配せずともその内見つかるわよ、貴方にも。夢とか
「私、早瀬さんが羨ましいです。その、彼女の才能とか、努力 人生の目標とか、そういう物がね。」「そうでしょうか。」
出来る姿勢とか、そういう事もだけど、そうじゃなくて─ 」
「これは本人から、誰かに話しても良いという許可を得て
話す事だけれど、真山さんは中学時代、周りの男子から
“男女”と言われ、ずっとからかわれていた。彼女自身も
自分の女っ気の無さに長い間悩んできたそうよ。けれど
高校に入り、演劇と出会って彼女は変わった。」
「...そうだったんですか。」
「江崎君だってそうよ?」
「あの通りの変わり者だから、気味悪がって誰も近づかない。
いじめられこそしなかったものの、中学ではボッチ飯上等
の孤高の存在。」「あぁ~。」
「今でも決して社交的とは言えないけれど、高校に入って
早瀬さんの付き人の様な事を始めてからは、家督を継ぐ
という自分の将来の目標も定まったせいか、とても充実
した毎日だと本人は言っている。周囲の人間達からも、
“あの”早瀬千草の付き人が務まる人間という事で、今や
一目置かれる存在になりつつある。」
(ワオッ!江崎君、真山さんの右下段抜いちゃったよ!!
あぁ見えて結構負けず嫌いだって、前に早瀬さんも
言ってたし、こりゃ隠れて特訓か何かしてたかっ?)
「やりたい事やしたい事、夢や目標なんて物は、大抵探して 「貴方の様な人はね、凛さん。早瀬さんや挟上さんの様な人に
見つかる様な物では無いわ。そういうのは“出会い”なのよ。 ドンドン巻き込まれれば良いのよ。」
縁と言っても良い。」「...でも。」 「巻き込まれる?」
「そうね、貴方の言いたい事は分かるわ。早瀬さんの様に、 「そう。事実今日こうしてココに来たのも、貴方自身の欲求で
人生を能動的に生きる人と、貴方の様に受動的に生きる人 来た訳では無く、誰かに頼まれて来たのでしょう?つまりは
では、その“出会い”の数も違うでしょう。」 それが巻き込まれるという事。」「あっ...!」
「世の中不思議なもので、貴方みたいな大人しい人には、
大抵“人生楽しまなきゃ損!”って感じの知り合いやら
友人が、一人二人は居るものなんだけど、違う?」
「い、居ます!絵に描いた様な人が!! 」
「でしょ? 活発な人が大人しい人と一緒につるむメリット
が何なのかは良く分からない。けれど、世の中って何故
かそういうものなのよ。そういう人達と常に行動を共に
していれば、貴方にもきっとその内、何かが見つかるわ。
見知らぬ何かに飛び込んでみる勇気も、そういう人達に
分けて貰えば良い。」
「メリット...そう言えば、高宮さんもそんな事を言ってました。
私にとって何かメリットが有るのなら、手伝って欲しいって。」
「そう? あの娘らしい言い様ね。」
「高宮さんも優秀な生徒だけど、やはり早瀬さんのそれとは違う。
彼女の才能は、言うなれば“王佐の才”よ。自分が先頭に立つ事
は不得手でも、先頭に立つ者の長所・短所を良く見極め、的確
にサポートする事に長けているわ。」
(スゲェ...。早瀬さん得意の左下段取りを撮るつもりだった
のにタカミーめ、初心者相手に利き手を使わないハンデを
捨てた途端に、あっさりと抜いちゃった。皆の表情も真剣
そのもので、午前中の練習の時とは明らかに一味違う!)
「ハイハーイ、審判長!」「何ですか、早瀬さん。」 「若いんだから失敗を恐れず、何でもかんでも巻き
「みんなの中で一番カルタ歴の長い高宮さんは、この際全員 込まれちゃいなさい。万が一、それで辛い想いや
に対して左手でカルタを取るハンデを付けるべきかと!! 」 悲しい経験をしたとしても、それを支えてくれる
「はい、却下。」「えー、何でぇ!? 」 親友が傍に居るなら尚更よ?」
「カルタ歴が長いと言っても、左手で取る練習を始めたのは 「はい。...私、何かちょっとだけ元気出て来ました。
僅か半月前です。その前にまず、競技途中でのルール変更 梅沢先生って原作の先生と同じ様に、凄く頼りに
は認められません!」「ぶーっ!! 」 なる先生なん...あっ!」
「その、すみません!あの、えっと...。」
「何?...あぁそっか。大方早瀬さんか高宮さんに、事前に
釘でも刺されてたのね? “梅沢先生の前で原作の先生の
話を出しちゃダメよ!”って。」「あの、はい。」
「良いのよ。私が嫌なのはそれでからかったりされる事で、
他は別に。寧ろ貴方の様に、あの先生みたいに頼れる!
とか言われたら嬉しい位よ? 立派な先生だものね。」
「そ、そうなんですか。良かっ...」「ただねっ!」
「何て言うか、本編では男っ気とか一切無かったじゃない? (...ショックだったんだ!)
如何にも“キャリアに生きる女の鑑”みたいな感じだった 「けどまぁ結婚自体はおめでたい事だわよね。でも凛さん
のが、イキナリ結婚って、ねぇ?」 聞きなさい。“桜”の方はアラフォーで見事ゴールイン
(...あれっ、急にやさぐれ出したよ、この人?) した訳だけど、私はアラフォーどころか、アラサーまで
「いや、まぁ私はそうでも無かったけど、あの先生みたいに には絶対結婚するから!見てなさいっ、この世界じゃね、
なりたい!とか、先生みたいに生きたい!とか憧れてた人 桜より梅の方が先に花開く事になってるのよ!!」
には、ちょっとショックだったんじゃないかなぁって。」 (しかも、何か変な所で対抗意識燃やしてるっ!?)
─── ─ ───
「えー、という事で、総当り戦の結果、大木さんと川嶋さん
の2名が、共に一勝のみの最下位という結果になりました。
この試合、一番勝ち数の少なかった者が罰ゲームという
ルールを設けていますので、審判団3名に拠る協議の結果、
これより2名による順位決定戦を行う事にします。」
「尚、ルールについては両者の実力が伯仲している事に加え、
予定の時間も押し迫っている事から、最終戦特別ルール
“空札無しの運命戦”としました。2枚有る内どちらの札が
読まれるかは、完全に運です。その上で守るか、それとも
攻めるかを各自が決めて下さい。...OK?」
「えっ、運で勝敗決めちゃうの!? 」
「そうよ。運というのも、競技カルタに絶対必要な物なの。
分からなければ原作を読破しなさい。」「...くっ!」
「ヒュー、ヒュー!! 」「頑張れー!」「ファイトよっ!! 」 (う~ん運命戦に拠る決着かぁ。確かに勝負は早いけど、
(くそぅ、こやつら他人事だと思って銘々好き勝手に 普通に考えれば、どちらも囲い手で自陣右下段を守る
盛り上がりよって...許さんっ!! から、絵的には面白みに欠けるかなぁ...。
応援の方は2対2で同数か。...と言うか、江崎君っ! まぁこれも仕事だから一応撮るけどね。)
あなたはどっちの応援なのよ? ハッキリなさいっ!! )
「悪いわね、私とした事がちょっと取り乱したみたい。」 「とにかく、困った事や悩み事が有るなら、アリサ先生
「はぁ、いえ。」 でも私でも良い。何時でも遠慮なく頼りなさい。
「そろそろ予定の時間も近い。戻りましょう。」「はい。」 勉強を教えるだけなら機械にだって出来る。私たちが
教師として、人間として貴方達の傍に居るのはね、
かつて貴方達と同じ悩みや苦しみを辿って来た先達と
して、皆を教え導く為よ。分かった?」「...はい。」
「始めるわ。序歌が終わったら、この2枚の内の
1枚を詠む。勝負は一瞬よ、気を抜かないで。」
(ど、ど、ど、どうしたら...!? こういう時のセオリーとか 「さくやこのはな~ ふゆごもり~」
私まだ何にも教わってないよ!) (後はこの目の前の札をブロックして守るか、それとも
「なにわずに~」 あの自分の右手から一番遠い位置にある相手の札を
(落ち着け、先ずは数学的に考えるんだ。運命戦とはつまり 一か八かで取りに動くかのどちらかしか無い。)
全てが運に左右されるという事。自分の札が読まれる確率 「いまをはるべと さくやこのはな~」
は完全に二分の一だ。) (そうっ、どう考えても、守る方が有利!! )
「いまをはるべと」 (くじ運が悪いって事だっ!!)
(でも、もし全てが運に左右されるなら、私には1つだけ、
自分で確かに分かっている事がある!)
「さくやこのはな~」
(私は小さい頃から、どうしようも無く─ )
「し...」 (動いたっ!)
「..のぶれど~」
(運命戦で...敵陣右下段抜きに行ったっ!? )
「いろにでにけり~ わがこひは~」
「ものやおもふと ひとのとふまで~」
「ものやおもふと ひとのとふまで~..」
「ありがとうございました。」
(...肩が震えてる。良いシーンのハズなんだけど... 「お二方とも。たった1枚の札の取り合いでしたが、
撮れねぇよ、こんなの。甘いのかな、甘いんだろうな、 今日一番の名勝負と言える程、鬼気迫る真剣勝負が
カメラマンとしては。) 拝見出来ました。次回の本番でもさっきの勝負の様に、
「あり...がとう、...ござい..ました。」 似てるとかカッコイイとか面白いとか、只それだけ
(でも、ナイス・ファイトだったよ、川嶋さん!) じゃない、観る人に何か私たちの心が伝わる様な、
そんなコスプレ写真を目指しましょう!」
「...でも、その前にっ!」
「げげっ!! 」
「ビリになった川嶋さんには、約束通りこれから罰ゲームを
受けて貰いまーす!」「くっ!」
「イエーイ!! 」「うおぉーっ!」パチパチパチパチ...
「オイッ貴様ら、さっきの名勝負への拍手より、この罰ゲーム
への拍手の方が大きいのは、一体どういう事だあぁっ!! 」
「...何か変に盛り上がってるわね?どうしたのかしら。」
「さぁ???」
── 次回、ようやくエピローグw ──
今回の撮影裏話等は、次回に纏めて綴ります。
長い作品を最後まで読んで下さった皆様に、心より御礼
申し上げます。
次回更新は、また一週間後辺りという事で。
それでは皆様、良いハニセレライフをお過ごし下さい。
それではここから、コスプレ同好会編⑥前半からの続き
をお送り致します。どうぞお楽しみ下さいませ。
「こちらです。」
「...なるほど、確かに良い庭園ね。手入れも...そうね、
見た感じ過不足無く行き届いてる。」
「広いですよねぇ。」
「これだけの庭を維持管理するだけでも、相当な費用
が掛かるものよ。まぁ早瀬さんの様なお金持ちの家
の皆さんには、ドンドン稼いでドンドン使って貰う
事が一番なんだけどね。」「そうなんですか?」
「個人にとって、お金は所有している事に意味が有る。けれど、 「それではこれより練習試合を開始します。初心者同士の
社会や経済にとっては、お金は流通している事にこそ意味が 対戦という事で、ルールに関しては柔軟に対応します。
有るの。謂わば血液と同じ。血は体の中を常に巡るからこそ 読手は私か千草、脇谷君が担当し、ルールの運用や決定
血足り得る。タンスに仕舞われたお金なんて、社会に於いて に関しても、その時担当の読手を審判長とします。
は人体のうっ血と同じだわ。」「はぁ。」 とにかく皆、くれぐれも怪我だけには注意して楽しんで。
「あそこから庭に下りられそうね。行きましょうか。」 ...じゃあ、始めます!! 」
「...で、ココ本当に土足で歩いて良いの?」
「ふふっ、先生でもやっぱり気になるんですね!」
「いまをはるべと~」 「あきの..」
(参ったなぁ、罰ゲームって何だろ? 饅頭10個一気喰い
とかなら...いやぁ、ダメだダメだっ!! と言うか、みんな
競技カルタの実力ってどれ位なの?)
「さくやこのはな~」
( 一番カルタ歴が長いタカミーは、経験者の千草と脇谷君
以外には左手ハンデが付く。その次に上手いのは千草と
脇谷君だけど、レベルで言えば一番下のE級で入賞出来るか
どうかって程度だって言ってたから、まぁ─ )
(えっ?)
「..たの~」
「..かりほのいほの~..」
(ウヒョッ! このシャッタースピードで、まだ手先が
ブレるのかよ。オラ、ワクワクして来たぞっ!! )
「..とまをあらみ~」 「..わがころもでは つゆにぬれつつ~」
(ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ...!! ) (有り得ないでしょ!? 何、今の速さ!)
「ゴメンね、大丈夫だった?」 「...頑張ってねっ!」「うん!! 」
「平気。アタシの場合、眼は基本カメラにガードされてるし。」 (カルタも人生も同じだ!...自分の取れる札から、
「そ、良かった。(1枚、1枚...!)」 自分の手に届くものから、)
(焦らず、慌てず、諦めず、
着実に手にして行く他は無いんだっ!! )
「本当に良いお庭...。不思議な物ね、ココも都会のビルの中
も同じ暑さ、同じ夏なのに、こうして広い自然に囲まれて
居ると、感じ方さえ違う。」
「あっ私達、さっきはあそこに行ったんです。目の前に大きな
池が有って、鯉じゃなくて河豚が泳いでました!」
「そう...?」
「うわぁ、ここにもたくさん泳いでる。私、真水に棲む河豚が 「...どう、凛さん? 外に出て自然の景色に触れて、
居るなんて全然知りませんでした。」 少しは気分も晴れたかしら。」
「恐らく南米産ね。日本だと冬場の水温が問題になるでしょう 「私は...。」
けど、まぁココなら温水を循環させるなり何なりで、対処も
出来るでしょう。」
「これでも結構真剣に教師をやって来たの。さっき貴方が
どんな事を考えて居たか、どんな事で思い悩んでいたか、
多少は察する事が出来てよ?」「.......。」
「自分は早瀬さんの様には成れない。早瀬さんの様な才能も
無ければ、覇気も、真摯さも、全力でぶつかって行ける様
な目標すら無い。向こうは青春全てを賭けて、悩みながら、
迷いながらも友人達と共に手を取り合って、前へ前へと
歩いている。なのに今の自分はどうだろう?彼女も私も、
同じ高校生なのに。...まぁそんな所かしら?」
「凄い、先生心が読めるんですか?」 「夢があって、それに力一杯、自分の体ごとぶつかって
「...貴方って結構天然よね?」「そうなんですか!? 」 行ける勇気がある所が、でしょう?」
「まぁ良いわ。言って置くわ、凜さん。別に早瀬さんと自分を 「そうです。...私は今までもただ流されるみたいに生きて
比べる必要は無い。使い古された言葉だけど、やっぱり今の 来て、そして多分これからも、それは変わらなくて。」
貴方に掛けるべき言葉はそれしか無いわ。」 「心配せずともその内見つかるわよ、貴方にも。夢とか
「私、早瀬さんが羨ましいです。その、彼女の才能とか、努力 人生の目標とか、そういう物がね。」「そうでしょうか。」
出来る姿勢とか、そういう事もだけど、そうじゃなくて─ 」
「これは本人から、誰かに話しても良いという許可を得て
話す事だけれど、真山さんは中学時代、周りの男子から
“男女”と言われ、ずっとからかわれていた。彼女自身も
自分の女っ気の無さに長い間悩んできたそうよ。けれど
高校に入り、演劇と出会って彼女は変わった。」
「...そうだったんですか。」
「江崎君だってそうよ?」
「あの通りの変わり者だから、気味悪がって誰も近づかない。
いじめられこそしなかったものの、中学ではボッチ飯上等
の孤高の存在。」「あぁ~。」
「今でも決して社交的とは言えないけれど、高校に入って
早瀬さんの付き人の様な事を始めてからは、家督を継ぐ
という自分の将来の目標も定まったせいか、とても充実
した毎日だと本人は言っている。周囲の人間達からも、
“あの”早瀬千草の付き人が務まる人間という事で、今や
一目置かれる存在になりつつある。」
(ワオッ!江崎君、真山さんの右下段抜いちゃったよ!!
あぁ見えて結構負けず嫌いだって、前に早瀬さんも
言ってたし、こりゃ隠れて特訓か何かしてたかっ?)
「やりたい事やしたい事、夢や目標なんて物は、大抵探して 「貴方の様な人はね、凛さん。早瀬さんや挟上さんの様な人に
見つかる様な物では無いわ。そういうのは“出会い”なのよ。 ドンドン巻き込まれれば良いのよ。」
縁と言っても良い。」「...でも。」 「巻き込まれる?」
「そうね、貴方の言いたい事は分かるわ。早瀬さんの様に、 「そう。事実今日こうしてココに来たのも、貴方自身の欲求で
人生を能動的に生きる人と、貴方の様に受動的に生きる人 来た訳では無く、誰かに頼まれて来たのでしょう?つまりは
では、その“出会い”の数も違うでしょう。」 それが巻き込まれるという事。」「あっ...!」
「世の中不思議なもので、貴方みたいな大人しい人には、
大抵“人生楽しまなきゃ損!”って感じの知り合いやら
友人が、一人二人は居るものなんだけど、違う?」
「い、居ます!絵に描いた様な人が!! 」
「でしょ? 活発な人が大人しい人と一緒につるむメリット
が何なのかは良く分からない。けれど、世の中って何故
かそういうものなのよ。そういう人達と常に行動を共に
していれば、貴方にもきっとその内、何かが見つかるわ。
見知らぬ何かに飛び込んでみる勇気も、そういう人達に
分けて貰えば良い。」
「メリット...そう言えば、高宮さんもそんな事を言ってました。
私にとって何かメリットが有るのなら、手伝って欲しいって。」
「そう? あの娘らしい言い様ね。」
「高宮さんも優秀な生徒だけど、やはり早瀬さんのそれとは違う。
彼女の才能は、言うなれば“王佐の才”よ。自分が先頭に立つ事
は不得手でも、先頭に立つ者の長所・短所を良く見極め、的確
にサポートする事に長けているわ。」
(スゲェ...。早瀬さん得意の左下段取りを撮るつもりだった
のにタカミーめ、初心者相手に利き手を使わないハンデを
捨てた途端に、あっさりと抜いちゃった。皆の表情も真剣
そのもので、午前中の練習の時とは明らかに一味違う!)
「ハイハーイ、審判長!」「何ですか、早瀬さん。」 「若いんだから失敗を恐れず、何でもかんでも巻き
「みんなの中で一番カルタ歴の長い高宮さんは、この際全員 込まれちゃいなさい。万が一、それで辛い想いや
に対して左手でカルタを取るハンデを付けるべきかと!! 」 悲しい経験をしたとしても、それを支えてくれる
「はい、却下。」「えー、何でぇ!? 」 親友が傍に居るなら尚更よ?」
「カルタ歴が長いと言っても、左手で取る練習を始めたのは 「はい。...私、何かちょっとだけ元気出て来ました。
僅か半月前です。その前にまず、競技途中でのルール変更 梅沢先生って原作の先生と同じ様に、凄く頼りに
は認められません!」「ぶーっ!! 」 なる先生なん...あっ!」
「その、すみません!あの、えっと...。」
「何?...あぁそっか。大方早瀬さんか高宮さんに、事前に
釘でも刺されてたのね? “梅沢先生の前で原作の先生の
話を出しちゃダメよ!”って。」「あの、はい。」
「良いのよ。私が嫌なのはそれでからかったりされる事で、
他は別に。寧ろ貴方の様に、あの先生みたいに頼れる!
とか言われたら嬉しい位よ? 立派な先生だものね。」
「そ、そうなんですか。良かっ...」「ただねっ!」
「何て言うか、本編では男っ気とか一切無かったじゃない? (...ショックだったんだ!)
如何にも“キャリアに生きる女の鑑”みたいな感じだった 「けどまぁ結婚自体はおめでたい事だわよね。でも凛さん
のが、イキナリ結婚って、ねぇ?」 聞きなさい。“桜”の方はアラフォーで見事ゴールイン
(...あれっ、急にやさぐれ出したよ、この人?) した訳だけど、私はアラフォーどころか、アラサーまで
「いや、まぁ私はそうでも無かったけど、あの先生みたいに には絶対結婚するから!見てなさいっ、この世界じゃね、
なりたい!とか、先生みたいに生きたい!とか憧れてた人 桜より梅の方が先に花開く事になってるのよ!!」
には、ちょっとショックだったんじゃないかなぁって。」 (しかも、何か変な所で対抗意識燃やしてるっ!?)
─── ─ ───
「えー、という事で、総当り戦の結果、大木さんと川嶋さん
の2名が、共に一勝のみの最下位という結果になりました。
この試合、一番勝ち数の少なかった者が罰ゲームという
ルールを設けていますので、審判団3名に拠る協議の結果、
これより2名による順位決定戦を行う事にします。」
「尚、ルールについては両者の実力が伯仲している事に加え、
予定の時間も押し迫っている事から、最終戦特別ルール
“空札無しの運命戦”としました。2枚有る内どちらの札が
読まれるかは、完全に運です。その上で守るか、それとも
攻めるかを各自が決めて下さい。...OK?」
「えっ、運で勝敗決めちゃうの!? 」
「そうよ。運というのも、競技カルタに絶対必要な物なの。
分からなければ原作を読破しなさい。」「...くっ!」
「ヒュー、ヒュー!! 」「頑張れー!」「ファイトよっ!! 」 (う~ん運命戦に拠る決着かぁ。確かに勝負は早いけど、
(くそぅ、こやつら他人事だと思って銘々好き勝手に 普通に考えれば、どちらも囲い手で自陣右下段を守る
盛り上がりよって...許さんっ!! から、絵的には面白みに欠けるかなぁ...。
応援の方は2対2で同数か。...と言うか、江崎君っ! まぁこれも仕事だから一応撮るけどね。)
あなたはどっちの応援なのよ? ハッキリなさいっ!! )
「悪いわね、私とした事がちょっと取り乱したみたい。」 「とにかく、困った事や悩み事が有るなら、アリサ先生
「はぁ、いえ。」 でも私でも良い。何時でも遠慮なく頼りなさい。
「そろそろ予定の時間も近い。戻りましょう。」「はい。」 勉強を教えるだけなら機械にだって出来る。私たちが
教師として、人間として貴方達の傍に居るのはね、
かつて貴方達と同じ悩みや苦しみを辿って来た先達と
して、皆を教え導く為よ。分かった?」「...はい。」
「始めるわ。序歌が終わったら、この2枚の内の
1枚を詠む。勝負は一瞬よ、気を抜かないで。」
(ど、ど、ど、どうしたら...!? こういう時のセオリーとか 「さくやこのはな~ ふゆごもり~」
私まだ何にも教わってないよ!) (後はこの目の前の札をブロックして守るか、それとも
「なにわずに~」 あの自分の右手から一番遠い位置にある相手の札を
(落ち着け、先ずは数学的に考えるんだ。運命戦とはつまり 一か八かで取りに動くかのどちらかしか無い。)
全てが運に左右されるという事。自分の札が読まれる確率 「いまをはるべと さくやこのはな~」
は完全に二分の一だ。) (そうっ、どう考えても、守る方が有利!! )
「いまをはるべと」 (くじ運が悪いって事だっ!!)
(でも、もし全てが運に左右されるなら、私には1つだけ、
自分で確かに分かっている事がある!)
「さくやこのはな~」
(私は小さい頃から、どうしようも無く─ )
「し...」 (動いたっ!)
「..のぶれど~」
(運命戦で...敵陣右下段抜きに行ったっ!? )
「いろにでにけり~ わがこひは~」
「ものやおもふと ひとのとふまで~」
「ものやおもふと ひとのとふまで~..」
「ありがとうございました。」
(...肩が震えてる。良いシーンのハズなんだけど... 「お二方とも。たった1枚の札の取り合いでしたが、
撮れねぇよ、こんなの。甘いのかな、甘いんだろうな、 今日一番の名勝負と言える程、鬼気迫る真剣勝負が
カメラマンとしては。) 拝見出来ました。次回の本番でもさっきの勝負の様に、
「あり...がとう、...ござい..ました。」 似てるとかカッコイイとか面白いとか、只それだけ
(でも、ナイス・ファイトだったよ、川嶋さん!) じゃない、観る人に何か私たちの心が伝わる様な、
そんなコスプレ写真を目指しましょう!」
「...でも、その前にっ!」
「げげっ!! 」
「ビリになった川嶋さんには、約束通りこれから罰ゲームを
受けて貰いまーす!」「くっ!」
「イエーイ!! 」「うおぉーっ!」パチパチパチパチ...
「オイッ貴様ら、さっきの名勝負への拍手より、この罰ゲーム
への拍手の方が大きいのは、一体どういう事だあぁっ!! 」
「...何か変に盛り上がってるわね?どうしたのかしら。」
「さぁ???」
── 次回、ようやくエピローグw ──
今回の撮影裏話等は、次回に纏めて綴ります。
長い作品を最後まで読んで下さった皆様に、心より御礼
申し上げます。
次回更新は、また一週間後辺りという事で。
それでは皆様、良いハニセレライフをお過ごし下さい。
by moriguchi01
| 2017-10-04 07:01
| SS公開